※このプレイ日記は2019年9月29日に後援者の柳さんが製作したものです。


第2020弾





ウイニングポスト8








なんの因果で隊長が彼の馬に惹かれたのだろうか。





かのタヌキと同じレースを走った。

ウサギノワルツと鎬を削った。

印象的な名前に惹かれた。


隊長の口からは、こんな事が語られていたように思う





当初、本項を書いている柳の目からは、そう魅力のある馬には

映らなかった。

競馬の下手な馬、不器用な馬。

そんな印象だった。


ただ、血統だけは「面白いな」と隊長に語った記憶がある





父キングヘイロー×母父グラスワンダー。





両頭は、アニメ【ウマ娘】で舞台として取り上げられた

1998年にクラシックを迎えた世代だ。





同世代にスペシャルウィーク、エルコンドルパサー、

セイウンスカイなどがいた、後世に語り継がれるべき”最強世代”。

世代を代表するGT馬2頭の血を、本馬は引き継いでいた。






正直なところ、レースでは勝利を期待する瞬間など、

ほとんど無かった。

毎回スタートで後手を踏んで後方からの競馬。

直線でスパートをしかけるも、短い佐賀競馬場の直線では

届くはずも無く、せいぜい掲示板に乗るのがやっと。





足りない、もどかしい。

そんな競馬ばかりだった。





そんなマインダダのベストレースは、19年3月末。

ウサギノワルツと勝利を競り合った一戦じゃないだろうか。






≪ワルツvsダダ≫


ワルツの応援をしていた隊長と柳は、後方から突っ込んでくる

一頭の末脚
に慄いた。


『ワルツのより強烈な末脚を使う馬がこんなレースにいたとは』


『あわや差されかけてた・・・あの馬なら、きっと勝ち上がってくる』


ウサギノワルツの勝利に安堵しつつ、口々に2着馬を称え

レースを振り返った。

その2着馬こそマインダダだった。





その後も惜しいレースはいくつかあった。

いつか勝利を!

しかし、その願いはいつもゴール板前で儚く散華した。






それでも、隊長はマインダダを応援した。

遂には横断幕まで作ってしまった。






JRAが作製した父キングヘイローのTVCM

イメージとも重なる、シンプルで格好イイ横断幕だと思った。


ダダが勝利した暁には、あの横断幕は佐賀の空の下、

日差しを浴びきっと映えただろう。


ただ、正直この画像が送られて来た時は、





『地方ですら勝てない未勝利の馬に横断幕だと(汗)?』


と数瞬言葉を失ってしまった。


応援する事に反対なんじゃない。

この先に待ち構えているであろう不安に対し、予防線を

張るような思いだった。






勝てない競走馬の行く末に、何が待ち受けているか。

競馬好きだからこそ、目を背けてはいけない事実だと思う。


知って知らずか、隊長はマインダダに声援を送る。

可能な限り競馬場に足を運び、横断幕を掲げ、声援を送り続ける。






別に諫めたかったわけじゃない。

だが、柳は隊長の熱の入れようにブレーキをかけるような事も、

敢えて言った。


落胆する隊長を見たくなかった。

そして、自分自身が落胆するのも嫌だった。


しかしそれは、全くのお節介だったようにも思う






隊長は分かっていた。


「毎回が最終決戦のつもりで応援しています」


そう言い放ち、尚も顔を上げ、前を向く。


『隊長、もうやめよう・・・この辺で引き返せ・・・!』


そんな思いが柳の胸に去来したのは、1度や2度じゃない。

思いを託せば、その託した分だけ落胆の反動は大きくなる。


どうして隊長は危ういもの、滅びの色がチラつくものに惹かれて

行ってしまうのだろう。






だけど、気付くと

私自身もマインダダの動向から目を離せなくなっていた。

気付くと、隊長と共にレース展望や結果に気を揉んでいた。


認めざるを得ない。

競馬の楽しみ方を隊長へ教授するつもりでやり取りしていた筈が、

気付くと私の方が教えられていたのだ。

一頭の馬を追い掛け応援し続ける喜びを。


寄せては遠ざかる、地平線の先でゆらめく陽炎の様な

勝利を願う喜びを。

例え、それが痛みを伴うものだったとしても、今更手放す事など出来なかった。





惜しいレースがいくつか積み重ねられ、季節は流れる。

梅雨空は去り、夏の気配に大気は熱を帯び始める。

ほぼ休む事も無く、走り続けるマインダダ。





『頑張れ!負けるな!マインダダ☆』

SNSに綴られたシンプルなフレーズの中に、隊長の祈りが込められる。


負けは、引退を早める事を意味する。

この先も一戦でも多く、ダダの応援をしたい・・・。


しかし、隊長の応援が勝利の歓喜へと変わる日は訪れず、

佐賀の空に虚しく溜め息が吸い込まれていく。





次第に彼の末脚は、在りし日の力強さを失っていった。

掲示板すら外す事も増えてくる。






地方競馬の残酷な現実の、乾いた足音が遠くから響いてくる。

この間、何頭の競走馬達を見送っただろう。





出走表へダダやワルツと共に名を連ねた、いわば戦友達が

物言わぬまま姿を消していく。


あのレーススタイルじゃ勝てない。


私は嘆く。


同時に、どうすれば勝てるだろうか。

そんなシミュレーションを妄想してしまう。


後ろからばかりでなく、前に付ける事は出来ないのか。

一度休養を入れたらどうか。


展開が向くまでひたすら走り続けるしかないのか。

何とか前に一つでも、上の着順を・・・!

そんな中、揺れる私とは対照的に、隊長の姿勢は一貫としていた。





『敗けが濃厚な時こそ、ファンの熱意が試されるところ。

勿論、次回も全力で応援します!』







何と言うか・・・

長剣HPという、長い事一カ所で踏ん張り続けてきた男は、

気骨が違うな。



私は感心し、言葉を繋ぐのをやめた。


信ずるものの為ならば、茨の道と知りつつ尚、隊長は行くというのだ。


このやりとりがあったのが9月の初頭だったように思う。

その日のレースも、マインダダは奮戦虚しく着外に敗れた。





そして、このレースが彼の最後のレースになった。


24戦目。

唐突に訪れた最後の瞬間。

何を告げる事も無く、残す事も無く、ひっそりと消えて行った。


マジかよ?まだ三歳だろ・・・!?

私は仕事中この報せを聞き、息を呑んだ。





惜しいレースがいくつもあった。

きっと良化してくれると信じていた。

勝手に、引退はまだ先だと思っていた。



だが、戦いの幕は前触れ無く突然下ろされたのだった。

予見がまるで甘かった。

これが地方競馬なのだと、思い知らされた。






悲しいというより、悔しい。

一度でいいから、勝ってほしかった・・・。

隊長の無念が滲む。


私も同様だ。

隊長と、一緒に勝利の瞬間を喜びたかった。






なんと無情な世界だろう。


そんな無情な世界で、なんて健気に戦うのだろう。

簡単には言い表せない、複雑な心情が渦を巻き、

昇華されないまま胸を焦がす。






だけど、何故こんなにもこの競馬というジャンルに

心惹
かれてしまうのだろう。


『サヨナラだけが人生だ』

こんなフレーズまで用意していまっていた自分を、

恥じるべきなのだろうか。






あの馬はいた。

もういない。

けれど、終わりは、次のレースの始まりでしかない。


あの一頭の、あの姿、あの走りを忘れない。

それしか出来ない。

それしか出来ないけれど、それだけは出来る。


その無念さが頭をもたげ、また前を向かせる。



行こう、次のレースが待っている。

締め切りのベルが鳴り響く。








さぁ、横断幕を翻せ。

『サヨナラだけが人生ならば そんな人生いりません』





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